コンタクト練習への段階的復帰を考える

その他

はじめに

こんにちわ、爪川です

今回の記事では脳振盪から競技復帰を目指す際のコンタクト練習への段階的復帰について少し考えてみようと思います

通常、脳振盪からの競技復帰では「ノンコンタクト(接触を伴わない)練習→コンタクト(接触を伴う)練習→試合復帰」という流れで段階的に競技に復帰していきます

前回と前々回の記事では脳振盪から競技復帰をする過程で運動強度の高いテストを行った論文を見ていきましたが、これらのテストはコンタクト練習に復帰する前に実施されています

※前回の記事→アセスメントとしての有酸素運動とダイナミック運動

※前々回の記事→脳振盪からの競技復帰:復帰基準としての高強度フィジカルテスト

ただし、これらの運動強度の高いテストは有酸素運動やバランス種目、ジャンプ動作などは含まれているもののコンタクトを伴う動作は含まれていません

ですので、たとえこれらのテストを無事に終われたからといってすぐさま次の日から何の制限もなくコンタクト練習に入っていくというのはリスクが高いかと思います

そこで考えられるのがこの運動強度の高いテストをパスした後に段階的にコンタクト練習を行うやり方です

コンタクト練習への段階的復帰を考える

ノンコンタクト練習も概ね問題なく参加でき、運動強度の高いテストもクリアした後はコンタクト練習への復帰です

ただしここで問題となってくるのは、コンタクト練習というのはスポーツの種類によって大きく異なる事です

ラグビーやアメリカンフットボールの”コンタクト”と、バスケットボールやサッカーの”コンタクト”は全く異なります。前者は意図的に相手にタックルしていきますが、後者では体の衝突はありますが相手を押し倒そうとするタックルはありません。また、チアリーディングでも着地の失敗などで脳振盪が起きますが、その地面への”コンタクト”と格闘技の”コンタクト”では同じ言葉でも全く意味合いが異なります

ノンコンタクト練習や運動強度の高いテストはある程度どのスポーツにも共通する要素(心肺能力やバランス力、集中力、判断力など)が主になってきますが、”コンタクト”の場合は一括りにせずにスポーツの特性を考慮する必要が高まります

ですので、このコンタクト練習への段階的復帰はスポーツ別に作成されていくのが現実的かなと思います

そしてスポーツ別に作成されている具体例として格闘技に関わっている医師達がまとめた非常にいい文献があるのでまずはそれを見てみようともいます

その文献自体に関しても以前のブログを書いています”「格闘技の脳振盪対応と競技復帰」 ”Consensus Statement from the Association of Ringside Physicians”より”

コンタクト練習への段階的復帰:格闘技の場合

参照資料より

これは”格闘技の脳振盪対策:リングサイドドクター協会による合意声明”という題名の文献です

この文献の中では、格闘家は試合復帰までに9つのステップを段階的にクリアするべきとしています

これらの9つのステップは3つの大きなフェーズに分けられており1つ目のフェーズでは有酸素運動などの基礎的な能力の回復を目標に3つのステップをクリアしていきます

2つ目のフェーズではノンコンタクト練習への復帰を目指し、ここも3つのフェーズに分けられています

最後の3つ目のフェーズはコンタクト練習・試合への復帰に向けて、さらに3つのステップに分けられています

参照資料より、フェーズ2と3のみ抜粋

さて、肝心の段階的なコンタクト練習への復帰の内容を見ていきたいと思います

コンタクト練習への復帰はフェーズ3が該当しますが、まず大前提としてこのフェーズ3を始める前には脳振盪の症状や兆候は完全に消失していることが必要です

有酸素運動などは脳振盪の症状があったとしても運動をすることによって症状が過剰に悪化しない時は実施する場合が多いですが、コンタクト練習への復帰はそうではありません

症状が完全に消失したのを確認した後にフェーズ3を開始し、フェーズ3の3つのステップを段階的にクリアしていきます

フェーズ3の3つのステップは以下の様な内容です

ステップ1:スパーリング、 短時間

ラウンドの時間は短くラウンド間の休憩は長く、ラウンド数は少なめから開始

ステップ2:スパーリング、 長時間

ラウンドの時間を少しずつ伸ばし、ラウンド間の休憩は短くしていく。ラウンド数は疲労具合を考慮しながら増やしていく

ステップ3: スパーリング、 通常練習

ラウンド時間や休憩、ラウンド数は通常のトレーニングと同等で実施

このようにフェーズ3の3つのステップでは段階的なコンタクト練習を「ラウンド時間やラウンド間の休憩」によって調整しています

もちろん格闘技といってもボクシングと総合格闘技は特性が異なりますし、それぞれの競技特性によってこのステップも多少異なると考えられます

例えばボクシングであれば最初は頭部への打撃は制限してボディーのみで行うことや、総合格闘技であれば寝技からコンタクト練習を開始するということもあるかと思います

※フェーズ2のステップ3(フェーズ3の直前のステップでは、相手が反撃しない状態でのスパーリングやグラップリングも開始しています。競技によってこれもコンタクト練習に含まれるかもしれません)

※コンタクト練習への段階的復帰とは多少異なりますが、アメリカのボクシング協会(州によってちがうそうですが、、、)は以下の図の様に、試合でノックアウトやテクニカルノックアウト、意識消失の有無や時間、一定期間内のその回数によって試合出場不可期間を定めています。これにより、長期で試合に出れない格闘家は段階的な競技復帰のタイムラインも変わってくることが予想されます

参照資料より

コンタクト練習への段階的復帰:考察

さて、コンタクト練習への段階的復帰の具体例として”格闘技の脳振盪対策:リングサイドドクター協会による合意声明”を見ていきました

そこではコンタクト練習の段階を「練習時間や練習間の休憩」によって調整しています

この具体例を踏まえて他の競技ではどのようなコンタクト練習への段階的復帰を考えられるでしょうか

ここでは私なりにラグビーやアメリカンフットボールの特性を基にして考えたものをまとめてみました(完全に個人の見解なので、これをそのまま実施することは勧めません)

ステップの数は多すぎても現実的でないですし少なすぎるとギャップが生まれてしまうので悩みましたが、ここでは5つに分けました(5つも若干多い気がしますが、、、)

ステップ1 ノンリアクティブ (Non-Reactive)

・タックルをする・受けるタイミングがあらかじめ決まった状態での練習

・相手や物が静止した状態でのタックルやコンタクト練習など

・自分が静止した状態でタックルなどを受ける練習など

・コンタクトの強度は徐々に上げていく

ステップ2 リアクティブ (Reactive)

・タックルをする・受けるタイミングを合わせる必要がある練習

・相手や物体が動いている状態に反応してのタックル練習など

・自分が動いている状態でタックルを受ける練習など

・コンタクトの強度は徐々に上げていく

ステップ3 リアクティブ+状況判断 (Reactive + Decision Making)

・状況判断をしてからタックルをするタイミングを合わせる必要がある練習

・1vs2(自分が1、相手が2)の状況で、複数の相手の動きを見ながら状況判断し適切にタックル・コンタクトを行う練習など

・コンタクトの強度は徐々に上げていく

ステップ4 リアクティブ+状況判断+環境(Reactive + Decision Making + Environment)

・複数の物が同時進行していく環境下で状況判断をしてコンタクト練習を行う練習

・複数vs複数(3対3など)の状況で敵と味方の状況(環境)を把握しつつ、適切にコンタクトを行う練習など

・コンタクトの強度は徐々に上げていく

ステップ5 制限なしのコンタクト練習に復帰 (Return to non-restricted Contact Training)

・チームに合流し通常のコンタクト練習を制限なしで参加

※コンタクトへの恐怖心がある場合はステップ1を長くするなどの修正が必要になるかと思います

上記の様な形で5段階に分けて考えてみました

ただし上述の様にコンタクト練習への段階的復帰はスポーツ別に行う必要があります

例えば上記の5ステップの場合、レスリングや柔道などの「常に1vs1」の場合であれば、周りの環境や複数人を相手に状況判断の練習をする必要はないと思われます

そしてさらに細かく言えばアメリカンフットボールでもポジションによって(例えばクォーターバックとラインバッカー)役割もコンタクトの特性も全く異なるので、同じスポーツだとしても競技復帰への段階的プロトコルはポジション別に多少修正する必要があるかもしれません

最後に

今回はコンタクト練習への段階的復帰に関して格闘技の具体例を見た後に、自分なりの考えをまとめてみました

コンタクト練習は競技特性とポジション特性が非常に強く出るので杓子定規的なアプローチは難しいです

それゆえに色んな方の知識や経験も合わさっていくとより良く現実的な物が出来るのかと思います

私の脳みそだけではたかが知れてるので、ご意見ご批判などあればコメントやメッセージを頂けますと幸いです

最後までお読みいただきましてありがとうございました

参照資料

Neidecker J, Sethi NK, Taylor R, et al Concussion management in combat sports: consensus statement from the Association of Ringside Physicians British Journal of Sports Medicine 2019;53:328-333.

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