「格闘技の脳振盪対応と競技復帰」 ”Consensus Statement from the Association of Ringside Physicians”より

文献など

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はじめに

今回はBritish Journal of Sports Medicineという医学雑誌に掲載されていた、“Concussion management in combat sports: consensus statement from the Association of Ringside Physicians”という論文から、気になった部分をご紹介したいと思います

この題名を日本語訳すると”格闘技の脳振盪マネジメント:リングサイドドクター協会の共同声明”となります

意味としては格闘技の試合の際にリングの側で対応にあたる医師達が、格闘技における脳振盪に関しての対策や課題、未来の方向性などに関して意見をまとめた共同声明となります

このような共同声明は非常に影響力があり、格闘技における脳振盪の1つのガイドラインとなる様な場合もあります

今回はこの共同声明の中から私が気になった部分2つをご紹介したいと思います

その2つは

・ノックアウト(KO)/テクニカルノックアウト(TKO)が起きてからの試合復帰

・脳振盪が起きてからの段階的な試合復帰までの手順

※この論文の中の”格闘技”はボクシング・キックボクシング・MMAを基にしています

「格闘技の脳振盪対応と競技復帰」

ノックアウト(KO)/テクニカルノックアウト(TKO)が起きてからの試合復帰

格闘技は頭部への打撃が含まれますので、その打撃の衝撃が脳に到達すると意識を失うことがあります

そのような場合になればノックアウト(KO)負け、もしくはテクニカルノックアウト(TKO)負けという判定になります

そして意識消失(LOC: Loss of Consciousness)を伴って試合に負けた場合、アメリカンボクシングコミッションは以下の様な試合復帰までの日数制限を示しています

参照文献より

簡潔にまとめると、重症度が強い負け方をすればするほど次の試合までに時間をおかなければならない設定になっています

重症度は意識消失の有無やその長さ(1分未満か以上か)、1回目のKO/TKOから90日以内に再度同じようなことが起きているか、1年以内に3度目のKO/TKO負けしているかなどで決まってきます

この設定によれば、KO/TKO負けをした場合、最短で30日の試合禁止、最長では18ヶ月の試合禁止の規定になります

ただ、このガイドラインもそれぞれのボクシングコミッションやアメリカの州によっては異なり、一般的にはTKOであれば30日の試合制限、意識消失を伴わないKOであれば60日の試合制限、意識消失を伴うKOであれば90日の試合制限が課されるそうです

気になった理由

このような重症度によっての試合復帰までの日数制限は、他のスポーツでも適用出来ると思います

プロスポーツの世界では「選手の健康を守る」”Players’ Welfare”という言葉がよく聞かれますが、脳振盪のような脳の怪我の場合は、意識消失の有無や一定期間内での複数の受傷であれば、試合への参加制限をするというのも選手の健康を守るという意味では役立つかなと思います(議論の余地は多くありますが)

ただプロスポーツでは統括団体の管理やメディカルサポート、コンプラインアンスもしっかりしているのでこのようなルールも守られやすいかと思いますが、学生の場合はそのような出場制限を課すのは実際問題難しいのかなと思います

ですので、そうなると条例や法律といった行政側のルール作りによって学生選手の健康を守るという手段もいいのかと思います

脳振盪が起きてからの段階的な試合復帰までの手順

参照文献より

どのスポーツでもそうですが、脳振盪を受傷した選手はたとえ受傷翌日に症状が良くなったからと言って次の日から練習をすべきではありません

脳振盪からスポーツに復帰する際は、段階的に徐々に運動強度などを上げていき、身体と脳を慣らしていく必要があります

そのような脳振盪からの段階的な復帰プロトコルはステージ1-6まであるものが一般的です(詳細はこちらをご覧ください)

ただ、この6段階の復帰プロトコルもあくまでガイドラインなので、より競技に合わせて微調整する必要もあります

上記の写真は格闘家が脳振盪を受傷してから試合に復帰するまでのプロトコルを示しています

このプロトコルは大きく3フェイズに分けられ、1つのフェイズにはそれぞれ3つのステップが用意されています

ですので、格闘家は合計で9つのステップを段階的に上がることで脳振盪から試合までに復帰していくこととなります

気になった理由

この格闘技に特化したような脳振盪復帰プロトコルはその競技の特性をよく表したものだと思います

原則は6段階の脳振盪復帰プロトコルを踏襲していますが、それ以上に格闘技に必要な要素を加えたもので、この考えも他のスポーツに応用できるかもしれません

6段階の復帰プロトコルはガイドラインなので、それから大きく逸脱しなければそれぞれの競技に必要な要素を足したり引いたりというのは「あり」なのかなと思います(もちろん医師への相談や許可は必要ですが)

例えば知人の話ではマーチングバンドの演奏でも脳振盪は起こるそうです

行進しながら隊列を変える際に、後ろからドラムが頭にあたり脳振盪を受傷したそうです

そのような場合では6段階の復帰プロトコルだけではなく、そのマーチングバンドで演奏を行うのに必要な事を付け加える必要がありそうです

この事例のようにガイドラインは踏襲しつつ、その競技に必要なことを考えて工夫するというのは今後の脳振盪リハビリでは「あり」なのかなと思います

終わりに

今回は”Concussion management in combat sports: consensus statement from the Association of Ringside Physicians”、「格闘技の脳振盪マネジメント:リングサイドドクター協会の共同声明」の中から気になった部分をまとめてみました

格闘技特有のルールや脳振盪復帰のプロトコルなど、他のスポーツにも応用できそうな部分は多々あり有益な文献でした

今後も週に1回程度更新を続けていこうと思います

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました

参照文献

Neidecker J, Sethi NK, Taylor R, Monsell R, Muzzi D, Spizler B, Lovelace L, Ayoub E, Weinstein R, Estwanik J, Reyes P, Cantu RC, Jordan B, Goodman M, Stiller JW, Gelber J, Boltuch R, Coletta D, Gagliardi A, Gelfman S, Golden P, Rizzo N, Wallace P, Fields A, Inalsingh C. Concussion management in combat sports: consensus statement from the Association of Ringside Physicians. Br J Sports Med. 2019 Mar;53(6):328-333. doi: 10.1136/bjsports-2017-098799. Epub 2018 Jul 26. PMID: 30049779; PMCID: PMC6579496.

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