はじめに
こんにちわ、爪川です
今回のブログでは脳振盪を受傷してから復帰過程にあるアスリートを対象に、高強度のフィジカルテストを実施して「本当にアスリートが競技復帰にむけて準備出来ているか?」を研究した文献を見ていきたいと思います
脳振盪を受傷したアスリートは段階的競技復帰プロトコル(GRTP)という基準に沿ってスポーツに復帰していくことが原則です
このGRTPでは最初は軽い有酸素運動から開始して徐々に運動などの強度を上げていき、最終的には人や物とのコンタクトを含んだ練習を行い、全て問題なければ試合に復帰していきます
ただし脳振盪は一見回復したように見えてもまだ脳や身体の機能が回復しきれていなかったり、骨折などと違ってMRIなどの画像で治癒したかどうかが見えないので、選手が本当に競技復帰に向けて準備出来ているかというのは手探りな場合が多いです
スポーツでの大怪我の1つに前十字靭帯の断裂がありますが、この怪我の場合は競技復帰の基準として「術後〇〇ヶ月以上」、「左右の筋力差が〇〇%以内」、「片足のジャンプが〇〇cm以内」などの色々な基準があります
脳振盪から競技復帰する際にもこのようなある一定の標準化された基準というものは出てくると思いますし、スポーツ現場レベルではもう既に実施しているチームもあるかと思います
そういった面でこの研究は参考になるのではないかと思います
脳振盪からの競技復帰:復帰基準としての高強度フィジカルテスト
高強度フィジカルテスト(Gapski-Goodman Test)とは?
この高強度フィジカルテスト(GGT)はシカゴにあるChicago BlackhawksというNHL(アイスホッケー)のプロチームのヘッドアスレティックトレーナーのMike Gapski氏とストレングス&コンディショニングコーチのPaul Goodman氏によって作成されました
このGGTはBlackhawksに所属するプロアイスホッケー選手の脳振盪後の競技復帰前のテストとして5年以上使用されています(2018年に発表の研究なので、2018年時点で5年以上使用)
GGTは有酸素運動とプライオメトリクス(ジャンプ)要素の2つから構成されています。有酸素運動ではステーショナリーバイクを用いて徐々に負荷を上げて行ったり高強度インタバールトレーニングを行います。プライオメトリクス要素では前後左右や回転を含んだジャンプの他、バーピーなどを連続で行います
GGT中は症状の再発や悪化などがないか定期的にアスリートに質問し、心拍数のモニターも胸部に装着します
このGGTはプロアイスホッケー選手用に作成されたので、今回の研究の被験者の多くが学生アスリートであることから強度を低くした修正版(mGGT)も実施されています
研究詳細
・計759名の脳振盪を受傷したアスリートがGGTもしくはmGGTを実施
・平均年齢15.3歳(13-25歳)
・男女比:男性59.3%、女性40.7%
・主な競技スポーツはアイスホッケー(44.7%)、アメリカンフットボール(10.8%)、サッカー(9.9%)、ラグビー(6.1%)、バスケットボール(5.5%)
高強度フィジカルテストの実施タイミングと復帰プロトコル
・高強度フィジカルテストはコンタクト練習に入る前に実施
・脳振盪を受傷した学生アスリートは10段階の復帰プロトコルにそってリハビリ実施
・段階1〜4では学校生活を送れるようにリハビリを行い、段階5で軽度の運動を開始し段階10で試合復帰(下記参照)
・段階5の時にBuffalo Concussion Treadmill Test(BCTT)を実施(BCTTについてはこちらの記事をご覧ください)
・BCTTで症状の再発がない段階まで回復したら、最低でも2回のノンコンタクト練習に参加しそれでも症状の再発がないことを確認
・学業やBCTT、ノンコンタクト練習で無症状かつ症状の再発がないアスリートのみ高強度フィジカルテストを実施
結果と考察
・759名中、111名(14.6%)が高強度フィジカルテスト中に症状が再発
・「安静時の脳振盪の症状がない」、「BCTTでの症状もない」、「ノンコンタクトでの練習も問題ない」、そういった場合でも高強度なテストに対しては脳や身体がまだ回復しきれてない可能性もある
・ただし脳振盪受傷後にコンディションが落ちているアスリートにとっては、このGGT/mGGTがそもそも”キツすぎる”可能性もある
・また、GGT/mGGTはアイスホッケー選手用に作成されたので違う競技の選手の身体特性には合わない可能性もある
まとめ
今回は脳振盪復帰過程にある学生アスリートを対象とした高強度フィジカルテストについての研究のまとめでした
自分なりのこの研究のtake-home pointsとしては、
・復帰過程で症状が無くなっているといって、脳や身体の機能が最大限まで回復していない可能性もある
・試合やコンタクトを含んだ練習というのは通常は「高強度」なはずなので、テストとしてそれに近い高強度な運動の実施も必要か
・スポーツによって身体特性は変わるので、スポーツ別の高強度テストの必要性もある
以上となります
今回もブログをご覧いただきありがとうございました
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