はじめに
こんにちわ、爪川です
今回の記事では『脳振盪の評価方法』について、アメリカのカンザス大学で実施されている外来患者用の脳振盪評価プログラムを見ていきたいと思います
脳振盪はさまざまな症状が発生するうえ、症状の強弱や改善にかかる時間は個人差があります
それゆえに脳振盪の評価では非常に多様な項目をチェックする必要があります
今回カンザス大学が公表した評価プログラムは『Comprehensive Protocol』という名前がついた『包括的な/総合的な評価プロトコル』になっています
このブログ記事ではそのComprehensive Protocolの全てを1つずつ見ていくわけではなく、大まかの枠の説明と、私自身が知らなかったり再確認したい項目だけ見ていこうと思います
脳振盪の評価:カンザス大学の外来プログラムを参考に
既往歴
まず最初は既往歴をチェックします。
既往歴とは今までの病気や疾患の有無のことです
チェックする内容は脳振盪の症状に悪影響を与える可能性が高いもの、例えば不安やうつ傾向の有無、脳振盪の症状と似ているもの、例えば起立性低血圧や良性発作性頭位めまい症などがあります
その他にも服用している薬やメガネの種類(遠近両用か、プリズムが入っているか等)もチェックします
もちろん今までの脳振盪の回数や時期、その時の症状も含まれます
動眼/前庭機能のチェック
動眼とは目を動かす機能、前庭とはバランスを取る機能です。ここでは様々なチェックが行われますが、この記事内では私が知らなかったことや再確認したいことを見ていこうと思います
輻輳(Convergence)での”近点”と”ぼやけ”の違い
輻輳(ふくそう)とはいわゆる寄り目のことです
寄り目は目の機能で非常に重要な動きの1つですが、その機能のチェック方法の1つは物体をどの程度目に近づけて見ることが出来るかということです
基本的には寄り目になるように何かしらの物体を鼻先に近づけていくのですが、脳振盪後に行うことが多いVOMSというテストでは、物体を近づけていって「ぼやけ始めた地点」を計測するのではなく「二重に見えた地点」を計測します
(VOMSについてはこちらの記事をご覧ください↓)
物体を鼻先に近づけて寄り目になっていくと、基本的にはまずは物体がぼやけて見えて、その後に二重になります
このVOMSでは二重になった地点を計測しますが、カンザス大学の脳振盪評価ではぼやけて見えた地点と二重になった地点のどちらも記録します
ちなみにカンザス大学では額を基準として距離を計測しています
ピント調節(Accommodation)
目のピント調節も目の機能に関して非常に重要になります
脳振盪の評価の際にピント調節の機能まではチェックしていなかったので、ここは「Comprehensive」なだけあるなと思いました
やり方はアナログ的に行うので特別な器具が無くても出来ます
患者の片方の目を隠し、もう片方の目のすぐ前に文字を見せます
その文字を少しずつ遠ざけていき、文字がハッキリと見えた地点と頬の距離を計測します
この距離を左右で比較したり、年齢別に算出された標準値と比べます
動体視力(Dynamic Visual Acuity)
カンザス大学の脳振盪評価プロトコルでは動体視力をチェックする際は器具を用いる方法と用いない方法があります
器具を用いた方法ではBERTEC BVA deviceという物を使います
特別な器具を用いない方法では糖尿病網膜症の際の実施されるテストを使用します(正確にはEarly Treatment of Diabetic Retinopathy Study eye chart)
やり方は結構シンプルで、日本の眼科でも行われる視力検査(○の空いている方を伝えるテスト)をまず行い、その後に頭を左右に他動的に振りながら同じ視力検査を行い、その両者の違いを比べます
ランドット ステレオテスト
Randotテストは立体視の能力をチェックするテストです
詳しいやり方は私も初めて聞いたのでわからないのですが、Youtubeに動画が掲載されていました(英語ですが)
VOR CancellationテストとVisual Motion Sensitivityテストの違い
VOR CancellationテストはVisual Motion Sensitivityテスト(視覚運動感度テスト)と非常に似ています(私は2つが同じテストだと思っていました、、、)
Visual Motion SensitivityテストはVOMSでも使用されますし(VOMSに関しては上記のブログを参考ください)、国立スポーツ科学センターでもそのテストのやり方を動画で紹介しています↓
VOR CancellationテストとVisual Motion Sensitivityテストの違いは、前者では検者が患者の正面に座って患者の頭を手で左右に回しつつ、検者もその頭を回すのと同じ速度とリズムで頭を回します(動画↓)
頚椎のチェック
首のチェックも脳振盪では非常に重要です。頭痛やめまいなども首の機能が低下して起きている場合もあり、脳振盪自体の症状と首由来の症状を判別するのは非常に難しいです
椎骨動脈のテスト
脳に血流を送る動脈は主に頸動脈と椎骨動脈ですが、椎骨動脈は首の骨の間を通っています
それ故に首の関節の並びが悪かったり、首の怪我がおきていると椎骨動脈の血流に悪影響を及ぼす可能性もあります
椎骨動脈のテストで一般的なのがVertebrobasillar Insufficiency Testですが、これは仰向けになった患者の首を伸展し回旋させます。ですので脳振盪を受傷したすぐ後ではこの動作事態に恐怖心があって出来ない場合が多いのではないかと思っていました
カンザス大学の脳振盪評価プロトコルでは、この椎骨動脈のテストを座った状態で行います
座ったままで首を回して症状の有無をチェックします。これであればそこまで怖さも感じずに出来るのではないかと思います
翼状靭帯と環椎横靭帯のテスト
首の関節の不安定性をチェックするテストでAlar LigamentテストとSharp Purserテストというものがあります
Alar Ligamentテストは翼状靭帯を、Sharp Purserテストでは環椎横靭帯をチェックします
学校で学ぶテストではありますが、現場で使用することはあまりないので今回のを機に復習して現場でも活用したいと思います
頚椎屈曲回旋テスト(Cervical Flexion-Rotation Test)
これは首の関節の動きをチェックするテストで、主に頚椎の上の方(上位頚椎)の動きをチェックします
基本的なやり方は非常にシンプルで、患者は仰向けに寝ます
検者は患者の首を最大限屈曲した状態にし、屈曲位のまま左右に回旋します
この時の可動域や質、痛みの誘発などをチェックします
Smooth Pursuit Neck Torsionテスト
Smooth Pursuitとは頭を固定して目だけを動かして目標物を追う眼球の機能です
この機能を首を回旋させた状態でチェックするのがSmooth Pursuit Neck Torsionテストです
基本的には首をまっすぐの状態でSmooth Pursuitを行ったあとに、首を回旋した状態で同じことを行います
首を回旋した状態でSmooth Pursuitを行った時に目眩や頭痛などの症状が発生すれば、首の動きや位置が症状に関与している可能性を示唆しています(動画↓)
Head Neck Differentiationテスト
このテストでは患者は回転する椅子に座った状態でテストをします
患者自身で椅子を左右45度程度回して体を左右に振ります。この時に鼻先とお臍は同じ方向を向くように首を固定します
10−20秒ほど回転させた後の症状を確認します
少し間を空けてから再度椅子を回します。ただし今回は検者は患者の頭を固定します。ですので鼻先はずっと正面を向いたまま、身体だけ回ります
1回目の時に症状が誘発されれば前庭機能の障害を示唆し、2回目の時であれば頚椎の障害を示唆します
Joint Position Errorテスト
Joint Positionとは関節位置覚と呼ばれます
身体のどの関節にもこの関節位置覚は存在しており、例えば肘を伸ばしている状態から90度曲げることは目を閉じていても基本的には可能です
これは肘の関節にある位置覚が90度がどれくらいかを認識したり、肘周りの筋肉の伸び具合や緊張具合で「だいたい90度はこれぐらい」というのがわかるから出来ます
ただし、関節周りに怪我をしてしまうとこの位置覚がずれてしまう時があり、それは首も一緒です
ですのでこの首の関節位置覚をチェックするテストがJoint Position Errorテストです(やり方の動画↓)
バランス/前庭機能のチェック
バランス感覚も脳振盪によって影響を受けやすい機能の1つです。バランス機能のチェックも様々なものがありますが、その中からここでは3つを見ていきます
mCTSIB(modified clinical test of sensory integration of balance)
このテストでは4つのやり方でバランス機能をチェックします
①両足を揃えて地面に立ち、目を開けた状態でのバランス
②両足を揃えて地面に立ち、目を閉じた状態でのバランス
③両足を揃えて不安定な場所の上(クッションなど)に立ち、目を開けた状態でのバランス
③両足を揃えて不安定な場所の上(クッションなど)に立ち、目を閉じた状態でのバランス
バランステストでは他にはロンベルグテストやBESS(バランスエラースコアリングシステム)がありますが、ロンベルグテストは不安定な場所の上では行わない、BESSは片足立ちでのバランス機能のチェックが含まれているなどの違いがあります
Cobaltテスト
Cobaltテストとはアスリート向けのバランス機能をチェックするテストです
Bertecという会社が販売しているのでCobalt/Bertecと記載されています(商品のサイト↓)
結果指標
結果指標とは脳振盪の症状の改善具合を測るために行うテストのようなものです。カンザス大学のプロトコルでは5つの結果指標が記載されています。
運動労作性のチェック
運動労作性とは運動や運動による疲労によって症状が発生・悪化することです。腓腹神経では自律神経の働きが低下する場合があり、その場合では運動をして息が上がったり血圧が変化すると症状の誘発が起きます。運動労作性のテストで一般的なものはバッファロー脳振盪トレッドミルテストやバッファロー脳振盪バイクテストです。
カンザス大学の脳振盪評価プロトコルでは運動労作性のチェックはエアロバイクを用いて行います
基本的なやり方はバッファロー脳振盪バイクテストとほぼ同じです(これらのテストの詳細は下のブログをご覧ください)
運転のチェック
車の運転に関してチェックが行われます。基本的に反応速度のみのチェックのようですが、BIONESS社のBITSという評価ソフトを用いているようです。
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