脳振盪後の有酸素運動:年齢によるターゲット心拍数の設定

リハビリ

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こんにちわ、爪川です😃

今回は脳振盪後に有酸素運動をリハビリとして行い、その運動の強度設定を年齢による予想最大心拍数(Age-predicted Maximum Heart Rate)を用いて行った研究を見ていきたいと思います

脳振盪後の有酸素運動:年齢によるターゲット心拍数の設定

前提

脳振盪を受傷した後はある程度の期間は身体と脳を休ませることが必要です(おおよそ脳振盪受傷後から48-72時間)

ただし、長期間休みすぎるのは脳振盪からの回復を遅らせることに繋がります

ですので現在では早期から有酸素運動などの運動を行うことが脳振盪リハビリの主流となっています

ただし、脳振盪からの回復期間では有酸素運動中に心拍数を上げる等の身体の機能が低下している場合があります

それゆえ、「どの程度まで心拍数を上げることが出来るか」というのは脳振盪リハビリをする上で1つ課題となります

その課題を解決してくれるのがバッファロー脳振盪トレッドミルテスト(BCTT)、もしくはバッファロー脳振盪バイクテスト(BCBT)です

そこで判明した最大心拍数を基にしてターゲットとなる心拍数の算出し、その数値に合わせて有酸素運動を行ってきます脳振盪からの回復に合わせて有酸素運動の強度(心拍数の数値)を上げていきます

また、脳振盪からの回復に合わせて有酸素運動の強度(心拍数の数値)も上げていきます



このように有酸素運動の強度設定を行う時は上記のテストを行う時が多いですが、今回見ていく文献ではこのテストは行わず、代わりの指標で有酸素運動の強度設定をしています

その代わりの指標となるのが「年齢による予測最大心拍数(Age-predicated Maximum Heart Rate」です

運動時の心拍数の変化というのは非常に研究された分野であり、有酸素運動時の最大心拍数は年齢によって求めることが出来ます

その計算式は「220-年齢」です

ですので、20歳の方の年齢による予測最大心拍数は「220-20=200」と言えます

これはかなり簡潔な最大心拍数の算出方法ですが、これを脳振盪リハビリで採用した場合はどうなるのか、非常に興味を持って文献を読んでみました

研究概要

この研究では急性スポーツ関連脳振盪(acute SRC)を受傷した計39名の被験者を対象にしています

この被験者を有酸素運動グループ(20名)と通常リハビリグループ(19名)の分けて研究を行いました

<有酸素運動グループ:20名>

  • 年齢(中央値):18歳
  • 女性:13名
  • 脳振盪既往歴無し:9名
  • 初診時の症状の数と強度(中央値):14、30

<通常リハビリグループ:19名>

  • 年齢(中央値):21歳
  • 女性:10名
  • 脳振盪既往歴無し:11名
  • 初診時の症状の数と強度(中央値):13、29

有酸素運動グループでは以下のやり方で有酸素運動を行います

・11日間の有酸素運動を実施

・2日連続で有酸素運動を行い、3日目は休むサイクルを4回行う

・1日目の運動強度は年齢による予想最大心拍数の60%で実施し、5分間ウォームアップ、15分間設定強度でエアロバイクを実施、5分間クールダウンの計25分実施

・2日目は運動強度は変えず、エアロバイクの時間を15分から20分にアップ

・3日目は休み

・このサイクルで徐々に強度を上げて年齢による予想最大心拍数の60→65(4日目)→70(7日目)→75%(10日目)まで上げていく

・被験者は脳振盪の症状が3点以上(SCAT5のスコア)上がると運動を中止し、2日連続で中止する状況になった場合は通常リハビリグループに入る

・被験者は1日目と4日目は研究責任者の管理下でエアロバイクを用いて有酸素運動を行い、それ以外では自身で行う

・自身で有酸素運動を行う場合はエアロバイクが推奨されるが、トレッドミルやクロストレーナー、屋外でのジョギングでも可とする

通常リハビリグループでは通常の段階的復帰プロトコルに沿ってリハビリを行います

その際に症状が再発した場合は1つ前の段階に戻ってやり直します

この2つのグループの脳振盪の症状(初診時、7日後、14日後、21日後、28日後)で比較、またスポーツ復帰までに要した日数でも比較します

結果

脳振盪症状の数と強度(中央値)有酸素運動通常リハビリ
初診時14, 3013, 29
7日目12, 2015, 31
14日目9, 1111, 22
21日目4, 610, 18
28日目3, 48, 9

有酸素運動通常リハビリ
スポーツ復帰までに要した日数38日60日

この研究について

この研究では有酸素運動をおこなったグループの方が通常リハビリグループよりも早く症状が改善し、スポーツ復帰までに要した日数も短くなったとの結果が出ました

特に有酸素運動ではその運動強度を「年齢による予測最大心拍数」によって決定したのが、他の研究とは違った特徴かと思います

この研究によれば有酸素運動グループの年齢の中央値は18歳なので、220-18=202が予想最大心拍数となります

運動強度はこの心拍数の60〜75%なので、121〜152になります

これは私個人の感覚ですが、有酸素運動では130〜140程度で症状が悪化・再発することが多いかと思いますので、この心拍数の上げ方は妥当なのかと思います

このような年齢による予想最大心拍数から運動強度を設定するのは非常に簡易的で実施しやすいですが、デメリットとしては個人別な運動強度設定が難しくなります

その点では心拍予備能(Heart Rate Reserve)を用いての予想最大心拍数から運動強度を設定すると個人差を考慮できるかと思います

ただし脳振盪受傷後でも有酸素運動は全く問題なく実施出来る場合もありますので、BCTTやBCBTを行うと「有酸素運動では症状の悪化がない」ということがわかりますが、反対に今回の研究のように徐々に心拍数を上げていくやり方だとそれがわからないというデメリットはあります

これからの研究では「予想最大心拍数による有酸素運動の強度設定グループ」と「BCBT・BCTTによる強度設定グループ」の比較なども興味深いかなと思います

また、有酸素運動グループは11日間の有酸素運動が終わった後のリハビリ内容は記載されていなかったので、そこはどうなのか気になるところです

まとめ

今回のまとめです!

  • 脳振盪後に有酸素運動を行った方が早期の症状の改善、早期のスポーツ復帰の可能性が高くなる場合が多い
  • 有酸素運動の運動強度は年齢による予想最大心拍数での設定も状況によれば考慮すべきか

参照資料

Hutchison MG, Di Battista AP, Lawrence DW, Pyndiura K, Corallo D, Richards D. Randomized controlled trial of early aerobic exercise following sport-related concussion: Progressive percentage of age-predicted maximal heart rate versus usual care. PLoS One. 2022 Dec 22;17(12):e0276336. doi: 10.1371/journal.pone.0276336. PMID: 36548338.

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