大学生アスリート、脳振盪からいつ学業に復帰すべきか?

文献など

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はじめに

こんにちわ、爪川です

スポーツでの怪我の多くはその怪我によって一定期間スポーツが出来なくなるということはありますが、手術を要する大怪我などでなければその怪我自体で学校生活や授業に支障をきたすことは多くありません

例えば足首の捻挫であれば痛みや腫れが治るまでは松葉杖を使うかもしれませんが、それによって学校の授業が受けられないということはありません(学校までの移動は大変ですが)

さらには授業に出席することで足首の捻挫が悪化することも基本ありません

ですが、脳振盪はそうとは限りません

脳振盪は脳の色々な機能に影響を与えるので、学校に行くことや授業を受けることでかえって症状を悪化させてしまう場合もあります

時にはそれによってスポーツに復帰出来る時期が遅れる場合もあります

では学生アスリートの場合、脳振盪受傷からどのタイミングで学業に復帰すると症状などを悪化させてしまう「負の影響」が強いのか、逆にどのタイミングであれば大丈夫そうなのか

これらに関することをアメリカのIvyリーグの大学を含めた20校の7年間のデータを基にした論文がありますので、それを見ていきたいと思います

大学生アスリート、脳振盪からいつ学業に復帰すべきか?

この研究では2013年から2020年までの7年間、合計20校での脳振盪を受傷した大学生アスリート1715名のデータをまとめています

そのデータではスポーツ復帰までのどの程度の日数がかかったか?、学業復帰までにはどの程度か?、症状がなくなるまでの期間は?、学業復帰はどのタイミングで行ったか?、などが集められています

多くのデータがあるのですが、ここでは学業復帰のタイミングに関することと、それ以外で気になった部分を見ていきたいと思います


①脳振盪の症状が消失する4日以上前から学業に完全に復帰した大学生アスリートは、受傷から14日以内にスポーツ復帰する可能性が21.5%低い

②脳振盪の症状が消失する4日以上前から学業に完全に復帰した大学生アスリートは、受傷からスポーツ復帰までに28日以上かかる可能性が19.1%高い

③脳振盪受傷によって学業への配慮を受けた大学生アスリート:47.1%

※学業への配慮とは例えば提出物の期限を延長したり試験を別室で受けさせてもらうなどの対応のことです

④脳振盪受傷から14日以内にスポーツ復帰出来た大学生アスリート:52.2%

⑤脳振盪受傷から21日以内にスポーツ復帰出来た大学生アスリート:69.8%

⑥脳振盪受傷からスポーツ復帰までに28日以上かかった大学生アスリート:21.2%

⑦脳振盪受傷から14日以内にスポーツ復帰出来た大学生アスリートの場合、その多くが受傷後2日目に症状が消失していた

考察

まず学業に復帰するタイミングについてですが、①と②で症状が消失する4日以上前に学業に完全に復帰するとスポーツの復帰時期が遅れる可能性を示唆しています

学業に完全に復帰とは特別な配慮などなく健康な状態と同じ条件で学校生活を送ることなので、これが早すぎるのは好ましくないと考えられます

この「4日以上前」という数字は後から振り返ってみるとわかる数字なので、現在進行形で脳振盪の治療やリハビリをしている場合はいつ症状が消失するのかはわかりません

それゆえ症状があるうちは完全な学業への復帰ではなく、特別な配慮(academic accomodations)を受けることもスポーツへの早期復帰には役立つことが考えられます

これに合わせる形ですが、③では脳振盪を受傷した大学生アスリートのうち約半数(47.1%)が学業への配慮を受けたことがわかります

これは日本にいる感覚からすると多い数字にも見えますが、アメリカの脳振盪を取り巻く状況や国民性などを考えると少ないもしくは多くはない数字にも見えます

次に④〜⑥の脳振盪受傷からスポーツ復帰までの日数ですが、7割が3週間以内に復帰、逆に2割が4週間以上スポーツ復帰に時間がかかるというのは、ある程度肌感覚と合っているかと思います

これに合わせて⑦の2週間以内で復帰出来た場合、その大学生アスリートの多くが受傷後2日目に症状が消失しているというデータは、逆に言えば受傷後2日目で症状が残っている場合は14日以内でのスポーツ復帰の可能性が低くなることも考えられます

脳振盪は症状も復帰までの期間も個人差が大きいですが、大学生アスリートの場合はこの受傷後2日目での症状消失の有無も1つの目安として頭の隅に置いておくのもいいかもしれません

まとめ

今回は大学生アスリートが脳振盪を受傷した際、いつ学業復帰すべきかについて論文のデータを見ていきました

症状が消失する4日以上前での学業への完全復帰はスポーツ復帰の時期を遅らせる可能性が高く、症状がある場合は学業は何かしらの配慮をすることが好ましいと考えられます

本日も最後までお読みいただきましてありがとうございました

参照資料

Wiebe DJ, Bretzin AC, D’Alonzo BA; and the Ivy League–Big Ten Epidemiology of Concussion Study Investigators. Progression through return-to-sport and return-to-academics guidelines for concussion management and recovery in collegiate student athletes: findings from the Ivy League-Big Ten Epidemiology of Concussion Study. Br J Sports Med. 2022 Apr 20:bjsports-2021-104451. doi: 10.1136/bjsports-2021-104451. Epub ahead of print. PMID: 35444018.

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