脳振盪考察:握力計と自律神経

リハビリ

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はじめに

こんにちわ、爪川です

今回の記事では最近私が考えていることをまとめる形で書いていきたいと思います

最近考えている事とは『握力計と自律神経機能の関係、特に血圧との関係』です

結論から言うと、

脳振盪から段階的に競技復帰を目指す際、握力計の数値や実施時の症状の有無は脳振盪受傷者が筋力トレーニングを行なっても大丈夫かどうかの指標になるのではないか

と推測しています

脳振盪考察:握力計と自律神経

脳振盪と無酸素運動

脳振盪を受傷すると自律神経がうまく機能しなくなる事があります

自律神経は交感神経と副交感神経を含み、心拍数や血圧の調整などの身体の機能を自動的に(それ故に自律)コントロールしています

脳振盪によって自律神経がうまく機能しなくなった場合、例えば心拍数を上げる必要がある時に上がらなかったり、血圧をうまくコントロールしにくくなるといった状態が見られます

脳振盪からスポーツ復帰を目指す際に行うリハビリでは、順番としてエアロバイクやランニングなどの有酸素運動を行い、それが大丈夫であれば筋力トレーニングなどの無酸素運動を行います

何事もなく順調に脳振盪から回復する場合もあれば、エアロバイクやランニングといった有酸素運動では大丈夫でも、筋力トレーニングなどの無酸度運動になると脳振盪の症状が再燃することがあります

なぜ有酸素運動は大丈夫でも無酸素運動では症状が悪化するのでしょうか?

無酸素運動を行っても大丈夫という何かしらの指標やテストはないのでしょうか?

このような疑問に対して個人的に考えていました

そしてこの疑問に対する答えを見つける為に、もう一度有酸素運動と無酸素運動時の身体の反応の違いについて勉強し直し、その際に以下の論文を見つけました

この論文は運動時の心拍数や血圧の変化を研究し1999年に発表されたものですが、今回の私の考察の結論に至るのに非常に参考になりました

有酸素運動と無酸素運動の違い:BP=COxR

有酸素運動と無酸素運動時の身体の反応の違いの1つに血圧の変化の仕方があります

BP=COxRというのは血圧を求める数式で、それは「血圧(BP)=心拍出量(CO)x末梢血管抵抗(R)」によって計算できます

心拍出量(CO:cardiac output)とは1分間に心臓が送り出す血液の量です

末梢血管抵抗(R:resistance)とは血液の流れやすさを表します。血管の直径が大きくなれば血液は流れやすくなり、直径が小さくなれば血液は流れにくくなります

一般的に交感神経が強くなると血管は収縮(細くなり)して血圧が上がり副交感神経が強くなると血管は拡張(太くなり)して血圧が下がります

血圧というのは運動を行うと自然と上がりますが、その様相は有酸素運動と無酸素運動で異なります

有酸素運動の場合、運動の強度と共に心拍数が上がり、心拍数が上がれば1分間に送り出す血液の量も増えるので心拍出量も上がります

先ほどの血圧を求める式を見ると、心拍出量(CO)が上がれば末梢血管抵抗(R)が下がらない限り血圧(BP)は上がります

実際に有酸素運動中では血圧は上がりますが、この血圧の上昇は末梢血管抵抗(R)が上がることよりも心拍出量(CO)が上がる事が要因です

下のグラフは横軸が運動の強度(VO2Max)、縦軸が血圧を表しています

参照資料より

運動強度が上がれば上がるほど血圧も上がっていますが、それは収縮期血圧のみで拡張期血圧は反対に若干下がっています

無酸素運動の場合でも血圧は上がりますが、ここでは心拍出量(CO)よりも末梢血管抵抗(R)の方が要因としては強くなります

以下のグラフは握力計を握った時の運動強度と血圧の変化を表しています

参照資料より

横軸は運動強度を表し、右にいくにつれてより強い力で握力計を握っています

このグラフから分かる通り、強く握れば握るほど収縮期血圧も拡張期血圧も上がっています

有酸素運動とは違い、握力計を握る時間は5秒程度で終わりますので心拍数の上昇や心拍出量(CO)の上昇がその時間内で瞬間的に起きるとは考えにくく、この血圧の上昇は末梢血管抵抗(R)の上昇によるものと考えられます

また、有酸素運動と無酸素運動の違いという点では運動時の最高血圧の数値が違います

100%の力で握力計を握ると収縮期血圧は約220mmHgを示しており、これは有酸素運動では到達していない数値です

さらに、握力計を50%の力で握った際の収縮期血圧は約180mmHgですが、この血圧は有酸素運動で75-100%の強度と同程度を示しています

ですので有酸素運動を最大強度近くで行なった時の血圧と握力計を50%の力で握った時の血圧がほぼ同じ程度になることを示唆しています

また、多くの場合は有酸素運動を行う際は徐々に強度を上げていきますので血圧も徐々に上がっていきますが、握力計を用いた無酸素運動では握るのと同時にその力加減で急激な血圧の上昇が起こります。それゆえに血圧の変化もより急激になります

血圧に関しての違い:まとめ

①血圧上昇の際、有酸素運動時は心拍出量(CO)要素が強く、無酸素運動時は末梢血管抵抗(R)の要素が強いことが予想される

②有酸素運動での最大血圧は180-190mmHg程度、無酸素運動のそれは220mmHg程度

③有酸素運動での最大強度時の血圧は無酸素運動(握力計)での強度50%程度と同等

④有酸素運動では血圧は心拍数の上昇に伴い徐々に上がる場合が多いが、無酸素運動では急激に上がる

考察

上記の違いを参考にこの記事の最初に書いた以下の疑問、

①なぜ有酸素運動は大丈夫でも無酸素運動では症状が悪化するのでしょうか?

無酸素運動を行っても大丈夫という何かしらの指標やテストはないのでしょうか?

これらについて考えていきたいと思います

なぜ有酸素はOKで無酸素はNG?

①の場合では、上記の有酸素運動と無酸素運動時の血圧の反応の違いに身体が慣れていないということが考えられます

特にウエイトトレーニングでは急激な血圧の上昇が起こるので、そのような変化に対しては有酸素運動のみでは身体が対応しきれていない可能性があります

有酸素運動では血圧の上昇の絶対量はある程度達成出来たとしても、その変化率は無酸素運動の方が高い為、血圧の変化に身体を慣らす必要があるかもしれません

また、血圧が上がれば血管周りの組織への圧も上がると予想できるので、周辺組織への圧刺激が症状に繋がっていることも考えられます

無酸素OKとなる指標やテストは?

②の疑問ですが、これは例えば握力計の数値をベースライン測定しておき、その〇〇%を症状の悪化なく実施できたら無酸素運動を始めるなどは出来るかもしれません

例えば握力計でベースライン値の50%の数値となるような力で握っても症状の再燃がなければ、ウエイトトレーニングを徐々に開始するなどです

握力計を握ることでも血圧の急激な変化ということは起こせますし、それにたいして身体を慣らしていくということは可能かともいます

あくまでこれらは推測の域を出ない話ですが、研究などの対象としては悪くないのかなと思います

今回は以上となります

最後までお読みいただきましてありがとうございました

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参照資料

Laughlin MH. Cardiovascular response to exercise. Am J Physiol. 1999 Dec;277(6 Pt 2):S244-59. doi: 10.1152/advances.1999.277.6.S244. PMID: 10644251.

Woehrle, Emilie BA; Harriss, Alexandra B. MSc,†; Abbott, Kolten C. MSc; Moir, Marcy Erin MSc; Balestrini, Christopher S. MSc,‡; Fischer, Lisa K. MD§; Fraser, Douglas D. MD¶; Shoemaker, Joel Kevin PhD,║ Concussion in Adolescents Impairs Heart Rate Response to Brief Handgrip Exercise, Clinical Journal of Sport Medicine: September 2020 – Volume 30 – Issue 5 – p e130-e133
doi: 10.1097/JSM.0000000000000635

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