King-Devick Testの学習効果と脳振盪からの回復に要する日数の関係

文献など

はじめに

※この記事は以前noteに掲載したものです

こんにちわ、爪川です

今回もスポーツ中の脳振盪に関しての文献をまとめたいと思います

今回の文献はかなり面白かったのですが、少し複雑で理解するのに数回読み直しました。このブログでは少しでもわかり易くなるようにしたいと思います

King-Devick Testの学習効果と脳振盪からの回復に要する日数の関係

前情報として

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この文献のタイトルは『Postexercise slowing on the King-Devick Test and Longer Recovery From Sport-Related Concussion in Adolescents: A Validation Study」で日本語訳だと「青少年のスポーツ関連脳振盪からの遅い回復とKing-Devickテストの運動後の数値低下」あたりになるかと思います

スポーツ中の脳振盪は多くの場合は大人であれば2週間程度、青少年以下であれば4週間程度で回復しますが、青少年の10-30%は回復するのに4週間よりも長くかかります

脳振盪という怪我は非常に複雑で、現在のところ重症度やどれくらいの時間が回復に必要かというのが科学的に判明していません

ですが、今回の研究はKing-Devick Testと有酸素運動を組み合わせることにより、脳振盪からの回復により時間がかかる脳振盪受傷者を見分けられる可能性を探っています

ここで出てくるKing-Devick Test(KDテスト:キングデヴィックテスト)とはスポーツ中の脳振盪を評価するテストの1つです

上の動画はKing-Devick Testのデモンストレーションです(全て英語です)

基本的には紙に書かれている数字を全て読み上げて、読み終えるまでにかかった時間を計測します

どんなテストでもそうですが、同じテストを行えば1回目よりも2回目の方がスコアは良くなります(これを学習効果:Learning Effectと言います)

それはKDテストでも起こります

この文献の著者たちは以前の研究で脳振盪を1週間以内に受傷した青少年を対象にした研究を行っており、そこではKDテストを有酸素運動の直前と直後で行いました

通常であれば有酸素運動の直後のKDテストは2回目なのでスコアはよくなるはずですが、被験者の中ではスコアが改善したグループと悪くなったグループがいました

そしてその後の脳振盪の回復具合を観察すると、この有酸素運動後のKDテストでスコアが悪化したグループは脳振盪から回復するのにより時間がかかっている事がわかりました

この発見をより確かなものとする為に、今回の研究では合計で99名の13-18歳の青少年を対象として研究が行われました

研究内容

この被験者となる青少年は脳振盪を受傷してから平均約5日以内にこの実験を行っています

実施する実験内容は以下のとおりです

KDテスト(1回目) → 有酸素運動 → KDテスト(2回目)

この有酸素運動ではBuffalo Concussion Treadmill Test (BCTT)というプログラムが行われました

BCTTに関してはこちらのブログをご覧ください↓

これは基本的には脳振盪受傷者が運動でどの程度まで心拍数を上げられる事が出来るかをチェックするテストですが、今回は有酸素運動として行われています

このBCTTではランニングマシーンの上で歩くことから始め、徐々にスピードなどを上げて強度を増やしていきます。被験者は脳振盪の症状を10段階(10が最もひどい)で評価し、運動のきつさを6-20で評価します(20が最もきつい)

BCTTを始める前に脳振盪の症状をチェックし、その点数よりも3点以上増えた時にテストを終了します(例:BCTTを始める前が2で、行っている最中に5になった時)。また、運動のきつさも6-20の間で18になった時にもBCTTを終わらせます

BCTTが終わったら2回目のKDテストが行われます

この2回目のテストで1回目よりもスコアが悪くなっていた被験者をPostexertional Slowing Group (PES グループ)、1回目とスコアが同じか良くなっていた被験者をNo Postexertional Slowing Group (Non-PES グループ)に分けました

その結果、99名の中で2回目の方がスコアが悪かった被験者は33名がPESグループに、それ以外の66名がNon-PESグループになりました

下の表が、実験の結果をまとめたものです

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この2グループのKDテストの結果、BCTTの結果、1回目と2回目のKDテストのスコアの差、そして脳振盪からの回復までに要した日数を比較した表が以下のものです

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これによればPESグループは2回目のKDテストでは最初より約4.5秒遅くなっており、Non-PESグループは逆に約5.6秒速くなっています

BCTTではどちらのグループも脳振盪の症状自体は悪化しており、その悪化具合に統計的な差はないので、2回目のKDテストの悪化はBCTTとは関係なさそうです

そして脳振盪から回復に要した期間ですがこれは中央値で示されており、PESグループの中央値は17日、Non-PESグループは13.5日でした

(因みにこの研究内での”脳振盪から回復した”とする基準は、安静時の症状の改善、正常な前庭機能や動眼機能、BCTTで症状の悪化なく疲労困憊までテストを続けられること、これら3つを意味します。スポーツ現場ではこの状態から段階的に練習へ復帰していくので、スポーツの練習に完全復帰するにはこの17日や13.5日よりもさらに時間はかかります)

ですので、この研究の著者たちは有酸素運動後にKDテストのスコアが悪くなった脳振盪受傷者は、脳震盪から回復するのに要する時間が長くなる可能性が高いとしています

冒頭にも書きましたが、脳振盪は非常に複雑な怪我でどれくらいの期間が回復するのに必要かというのがはっきりとわかりません。統計的には多くの大人は2週間以内、青少年は4週間以内に回復するとされていますが、もっと時間がかかる人もいます

ですので、KDテストと有酸素運動を組み合わせて回復に長く時間がかかる人を見つけようと試みたこの研究内容自体は非常に面白く勉強になりました

ただし、読んでいく中でいくつか注意点もあったのでここに残そうと思います

注意点

1つ目はPESグループになった被験者たちは、初期の脳振盪の症状がNon-PESグループに比較して統計的有意に高いこと

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脳振盪は受傷後すぐの症状が強ければその分回復するのに時間を要します。ですので、2回目のKDテストでスコアが悪くなった人たちは脳振盪からの回復に時間を要したのではなく、もともと受傷初期の脳震盪の症状が強かった人たちが2回目のKDテストでスコアが悪くなったグループに入り、それにより回復により時間が掛かったとも言えます

2つ目はこの研究では脳振盪受傷から30日以上経過しても症状が残る場合をPersistent Postconcussive Symptoms(PPCS)と定義しています

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このPPCSになった被験者の割合がPESグループもNon-PESグループも同じだったのです(PESでは33名中3名、Non-PESでは66名中6名)

KDテストと有酸素運動を組み合わせることにより、脳振盪からの回復により時間がかかる人を探せる可能性もありますが、4週間以上脳振盪の症状が残るPPCSの人たちはPESでもNon-PESでもこの研究では同じ割合で出てきています

参照文献

Postexercise Slowing on the King-Devick Test and Longer Recovery From Sport-Related Concussion in Adolescents- A Validation Study.pdf

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